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文章屋Y.S.のよしなしごと日記、音楽映画書評など

誰も知らない

 これも忘れないうちに印象を書いておきたかった作品。あいにく近場の劇場で公開されなかったので、DVDを買って見た。
 「誰も知らない」は時代をとらえた秀作で、全体のトーンやドキュメンタリーのような編集とカメラワークも秀逸。何ものかを「悪」とするのではなく、置かれた状況のなかで精一杯自分の大切なものを守ろうとする少年を描く。実際の事件の時は「鬼母」扱いで悪趣味な週刊誌あたりに叩かれていた母親も、身勝手で幼稚ではあるが、いわば社会的弱者であって、彼女なりの幸福を追求したがっていた一人の女ととらえれば、ただ憎めばいい存在ではないことがわかる。「私は幸せになっちゃいけないの? 一番勝手なのはあなたのお父さんじゃないのさ。私達をほったらかして出て行って」と自分の息子に向かって叫ぶ姿は悲痛だ。
 四人の子ども達だけの世界は、部屋は荒廃し、電気も水も止められて、しだいに行き詰まっていくが、この四人の「誰も知らない」共同生活を、監督はただの不幸、悲惨、悲劇としては描いていない。彼らは彼らなりに支え合い、特に(カンヌで賞をもらった柳楽くんの演じた)長男は、施設にでも福祉事務所にでも、行こうと思えば行けたのに、四人だけの、監督の言う所の小さな「ユートピア」を守ろうとした。子ども達を一回も学校に通わせず戸籍にさえ入れていなかった母親を、彼らは憎んでいない。これが監督の視点だ。いかなる環境下でも、異常と思われる空間にも、人の愛や幸福への希求が存在する。ただ、この先進国、世界第二位の経済大国の片隅で、「誰も知らな」かった彼らの半年。母子という関係が生まれてからなら十数年を彼らがこのように生きざるを得なかったのはなぜなのか。我々は社会をどう変えていかなければなからないのか。この映画では実はメインではないのだが、そうした問いかけも感じざるを得ない。

 実際の事件の少年(長男14歳(柳楽くんが演じた子))は、「法廷で自分たちを捨てた母と再会したとき、彼女の期待に答えられず、妹を死なせてしまったことで自分を責めて涙を流したという」。胸を締め付けられるようなこの少年の思いに、心を打たれずにいられない。「あらゆる事件の関係者の中で、彼だけが自分の責任を全うしようとした。そして全うできずに自分を責めていた。14歳の彼だけが」(「」内監督の演出ノートより)。実際の事件では森の中に埋めた妹の所に、彼は幾度もお墓参りに行っていたという。母と四人の子の閉鎖された世界の中で育ったこの少年の中に、ただの「鬼母」からこのような美しくも切ない精神性が育つだろうか。監督が書いている。「もしそばにいたら、僕は彼の肩を抱いて『よく頑張ったね』『僕は君のことが好きだよ』と言いたいと思ったと。僕はこの少年がいとおしくてたまらなくなってしまった」と。私も演出ノートを読んでいて、この短い文章を読んだだけで胸が熱くなり、監督と同じ思いを抱いた。

 少年にからむ陰惨な事件が続いている。マスコミが意図的にある色に染めて流す情報に踊らされてはいけない。いかなる事件にも「人間」が絡んでおり、その一人一人が幸福になりたい、認められたいと叫んでいる。一人一人が、である。戦争で「何百人、何千人」の死者などという無機質な数字に何も感じないような感性では、世の中は狂っていく一方だろう。

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