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文章屋Y.S.のよしなしごと日記、音楽映画書評など

血と骨

 記憶が鮮明なうちに、ぜひとも感想などを書いておきたかった作品。映画を見た後、文庫本で小説も読んだ。
 戦前・戦後の混乱期から日本の成長期の手前くらいまでの、在日朝鮮人の「底辺の」暮らしを背景に、金俊平という一人の怪物じみた人間を描いた作品。ただ、映画では尺の関係もあるし、主役のビートたけしが決まった時点で、二十代とかの金俊平を描くことはスッパリ切ってしまったらしく、出奔していた金俊平が戦後のごたごたの頃、突然帰ってきたところからはじまっている。これはむしろ、映画制作の側の英断だと思う。他にも原作に比べていろいろいじってあるところがあるが、不満を感じるところはなく、非常に良くできた作品だ。

 映画を見終わって劇場を出る時、しばらく体の震えが止まらなかった。それだけ、感動したということなのだが、感動というものは涙涙とか快刀乱麻を断つかっこよさを味わった時だけに得られるものではなく、心に深々と突き刺さり魂を揺さぶられるものによっても起こり得る。
 この映画に描かれた在日朝鮮人の世界は、私の父親にとっては生の体験である。踏み込んだら無事には帰れない、とか言われた朝鮮部落が近くにあり、そこで犬の解体を目撃した。俊平が豚を解体したようにである。自転車で走っているところに道端から棒きれを差し込んで転倒させ、逃げた小さな朝鮮人の子を追いかけて殴ったら、大勢の朝鮮人の子どもに囲まれて袋だたきにあった。また、自分達自身も、あやしげな金物屋にそそのかされて中学校に忍び込み、銅製の雨どいを全部はずして売り飛ばした。父親の友人の多くが捕まり、自分は友人が口を割らなかったので捕まらなかった、ということもあったという。初期の焼き肉屋(知っての通り臓物をタレにつけて焼く初期の焼き肉屋はほとんど韓国朝鮮人のものだった)に怖いもの見たさで入ったら、ケンカが始まり、片方が相手を脅すのに口を血だらけにしながらガラスのコップを食うのを見たという。これだけ左様に私の父親にとってはこの映画の世界は、リアルに存在した思い出の中の過去の澱のようなものが詰まっており、ある種見ないわけにはいかない映画だったらしい。
 さて、私にはそんな父親に比べて、恐ろしくも猥雑なそんな原体験があろうはずがない。しかしなぜか、子ども達の前で嫌がる母親を組み敷き犯す俊平、我が子に向かって常人にはあり得ないような暴力を振るう俊平の姿を見ていると、なぜか自分の原体験にも、そんなことがあったような、見聞きしたような、不思議な感覚に取り憑かれるのだ。これがおそらく、原作者や監督や脚本家が作り出した、金俊平の「存在感」なのだろう。
 だからと言って、ヤクザ映画でヤクザがかっこよく描かれるケースさえある中で、金俊平はどこにもかっこよさなどなく、ヒーローでもない。むしろ人間の屑である。誰をも愛さず、誰をも信じず、誰からも愛されず、信じられず、暴力や欲望への衝動を思うがままに爆発させ、周囲の人間をも地獄に追い込んでいった業の塊のような金俊平。だが、彼の孤独や生き方に、やはり男なら「共感」と言わないまでも何か感じるものがあるはずで、私自身、なぜかこの金俊平にわずかならぬ愛情や近親感を抱いてしまったのである。これこそが原作者、監督や脚本家の人物造形、ビートたけしの渾身の演技の賜物であると思う。

 これは、名作。娯楽映画ではないので万人には勧めにくいが、日本の映画の歴史に残るマスターピースだと思う。

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ラスト・サムライ

 予告を見た時点では、全く興味を持たなかった作品。欧米人が「日本」、カタカナの「サムライ」を描く作品に、今までのところろくなものはなかった。例えそれが敬意や憧憬に満ちた描き方でも、こちらから見ればこっけいでしかないというような・・・「SHOGUN」とかもひどいものだった。
 ところが、「ラスト・サムライ」は違う。制作者は深みこそないもののかなり正確に日本の侍像、武士道をとらえ、それを見事に理想化して映像化している。現実には存在しなかったとも言えるし、ある意味確実に存在し、今も日本人の心に生き残っている完全な美を備えたもの。それを骨太に描いている。
 また、うれしいことに、日本の役者陣が「かさ」の上でトム・クルーズらに全くひけをとらない。渡辺謙も真田広之もかっこいいのである。
 たぶん、最近多い面白いけどすぐ忘れ去るような作品ではなく、長く記憶に残るマスターピースになるのではなかろうか。

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ネットを中心として活動する文章屋です。最近はiPhoneにはまってます。

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