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文章屋Y.S.のよしなしごと日記、音楽映画書評など

臨採のころ

 私には、約三年間の講師(臨時採用)経験があります。その舞台は、故郷の京都です。講師時代というのは、先のことを考えなくてもよい(考えようとしても見通しも立たない)、失敗を恐れなくてもよい、といったあたりで、今よりも一つ一つの瞬間が全力投球であり、正式採用されてからの十年よりも、むしろ、密度は濃いと言えるかもしれません。感動体験も、最悪の失敗談も、たくさん思い浮かべることができます。

 それは、確か講師四校目でした。前任校と少し間隔を開けて、三学期の二ヶ月程だけの任期でした。
 けっこう荒れた学校で、トラブルもそこそこに・・・といった感じ。ただし、その前に行っていた学校がひどすぎたので、驚くほどではなかったのですが・・・。
 私は、中学校三学年のうち、「問題の」二年生部会に配属されました。ここではまず、「学年セクト」というものの存在を目の当たりにしました。互いの学年の先生がいないところでヒソヒソ、他の学年の悪口を・・・。想像がつくと思いますが、落ち着いている一年生部会の先生が、二年生がああだから、一年生に悪影響を与える、ほんと困ったもんだ、みたいな調子で囁くわけです。二年生部会の方は、職員会議で言いたいこといいやがって俺たちだって精一杯なんだ、一年生なんかたまたま落ち着いて楽でいいよな、という調子です。いい大人が・・・と思いませんか? 私はペイペイですから、適当にどちらにも相槌打っていられました。まあ、二年部会に配属されたわけですから、内心は二年部会に同情的ではあります。一番キツイのは二年部会なわけですから、そこをどうサポートするか、どうすれば二年生をよい方向に持って行けるかをみんなで考えるのが望ましい教師集団というものです。だいたい先生方は自分のクラス、学年で手一杯ですから、大所高所から物が言えて、状況を改善できるのは管理職以外にないと思うのですが・・・ここの管理職はダメダメだったみたいです。

 さて、私の方ですが、来て早々にトラブルの渦中に自らを落とし込んでしまいました。理科室に他のクラスの生徒が乱入して荒らしている! との報が職員室に入り、残っていた先生方はすわ! と理科室に向かいます。もちろん私もです。細かい流れは忘れたんですが、私は暴れている生徒の手を強引に引っ張って外に連れ出そうとしていたのです。その行為に対して、手を引っ張られたA君が激昂、私ともみ合いになり、他の先生が分けて入って、ということになりました。
 このケースの場合、ある意味私の行動はマズかったわけですが(しかし後述しますが間違っていたとは思いません)、ペイペイの私にはそれは理解できませんでした。どちらが正しいかということではなく、「こうすればキレるかもしれない」という生徒の手を後先考えず引っ張ってもダメなんですね。人間関係ができている教師でないと、手をつけられない心の状態の生徒は当然いるわけで、だからこそ他教室に乱入などするわけです。ご機嫌取りみたいなのはダメですが、私のようにポンと飛び込んできた人間は、ある程度生徒に逃げ場を与えながら言うべきことを言い、人間関係のできている先生の到着を待つしかない。あれは、そんなケースだったと思います。「いきなり手を出すなんて考えられない」というようなことを、私に聞こえよがしにいう先生もいましたが、当時の私は「何だよその弱腰は! こっちは正しいことをしてるんだから堂々としてりゃいいんだ」と、反発を感じていましたね。その時の感覚は、今も間違っていないと思います。今の私から見て、あの頃の私のような突然来たペイペイにどうして欲しいかと言えば、「後先考えずにぶつかれ」です。トラブってもいいから、正しいと思う行動を取って、ぶつかっていくべきだと思います。異論もありそうですけどね。
 まあその後が大変でした。担任の先生から話をしてもらい、A君が私に謝ってチョン、のはずが、A君は「絶対謝らねえ」とのスタンスからてこでも動かず、その日は終わりになりました。翌日から、悪口雑言は当たり前、二階の踊り場から私に唾を吐きかけてくるわ、集会の時に列を離れて私のところにすごんでくるわで、授業時数が少なく楽だったはずのこの学校での勤務は、にわかに重いものになってきました。もっとも、担任の先生にしてみれば、せっかく最近落ち着いてきたのにトンだトラブルメーカーだ、と私のことを見ていたことと思われます。
 二ヶ月しかない任期の中で、もはやこの状況は打開不可能に思われました。しかし、転機は訪れたのです。任期が切れるまであと三日。私につかみかかってきたのが、三度目だったか四度目だったかです。生徒指導室で、彼は泣きました。「いつも自分ばかりが悪者にされる」と。その言葉は、私の胸に突き刺さりました。小学校の頃、私がいつも抱いていた思いと重なったのです。私も不適応児だった。いつもやっかい者扱いだった。対等のケンカでも、いつの間にか俺だけが悪者になっていた・・・。そして彼は言いました「先生は俺を見下している。バカにしている」、と。私は深い考えもなく、彼に噛みついたのです。
 「お前は、たった二ヶ月かそこらで、俺がお前を見下している決めつけた。会って少ししかたってない人間を見下すような人間は、俺は最低だと思う。お前は、俺をそんな最低な人間だと決めつけるのか。それは違う。それだけは違う。・・・謝ってなんてくれなくても構わない。そのことだけは信じて欲しい」と。
 彼は私を見つめて沈黙し、担任の先生と二人だけで話したいと言いました。しばらくして、出てきた担任の先生が、私に言いました。彼は、「先生の言うことはわかった」とだけ言ったと。
 翌日以降、彼は私に何もしてこなくなりました。しかし、何も語りませんでした。私の勤務最後の日、校舎を出た私が二階を見上げると、ほんの少し笑った彼が、窓から手を振っていました。

 今から思えば、私は彼を見下してこそいないにしても、理解できない自分と違った世界の人間としか認識できていなかったかもしれず、そのことが、言外に彼に伝わっていたのかもしれません。子どもは、そういうことに敏感です。生徒指導室で、私にフラッシュバックをもたらした彼の一言が、私の目線を彼のいるところまで引き下げてくれました。そして、私の心からの叫びが、彼に届きました。あの日、私はくやしい、と思いました。講師という自分の立場が、卒業まで彼を見送ってやれない中途半端な身分が、です。

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ネットを中心として活動する文章屋です。最近はiPhoneにはまってます。

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